【短編集】エーテルの底で
漫画を鞄に詰め込んで「じゃあ」とだけ低くボソリと呟いた。
平良も小さな声で「うん」と呟いた。
俺とは違う、高く繊細な声で。
鞄を持ち上げて帰ろうとした。だけどなぜか足はとまったままだった。
「……平良は帰らないの?」
「…うん」
「カサ忘れたとか?」
こんなぎこちない空気に耐えられないなら早く帰ればいいのに、俺は必死で言葉を紡いでいた。
「花を、みてるの」
「……花?」
「そう。でも散っちゃった。雨で……」
窓の外をみてみる。
いつも見えていた桜のようなピンク色の花は枝からこぼれ落ちていた。
「せっかく蕾が咲いてきてたのに……」
そう呟いた平良の横顔は儚げでどこか凛としていた。