―優しい手―




部屋の鍵は閉まっていて、誰も居る様子はなかった




帰ろうと 諦めかけたその時だった




突然、ハヤトが玄関口の隣にある小さな窓を破った




“?! ハヤト、アンタ何やってんだよ?”


ハヤトの耳に 私の声は届いていないようだった


“シュウ!”



破れた窓枠からは シュウの姿が見えた



ハヤトは何かを感じたらしく ドアを蹴破った



それは、信じられないぐらいの力で… いつものハヤトからは想像もできない程だった



壊れたドアから足早に入ると ハヤトはシュウの顔をひっぱたく



“ハヤト!!”



やっぱり私の声は聞こえていない。…たぶん… 今のハヤトに、私の存在はないに等しい



“シュウ!お前、分かってるのか?コイツのおかげで どれだけの人間が死んでいったのか…忘れたとは言わせないからな!”



シュウの目の前で ちらつかせる小さなビニール袋には白い粉が入っていた



“アァァァ――――!”


頭を抱え叫ぶシュウ



シュウのその声は とてつもなく― 憎しみ 怒り 悲しみ 恐怖 寂しさ そして、自分に対する哀れみ ―それらの感情が入り混じったそのもので、私の身体を強張らせた



そんなシュウの姿を見て見ぬフリはできなかった



ハヤトが腕を振り上げた瞬間 私の身体は自分でも分からないぐらい速く、シュウの身体を包み込んでいた



“退けろ!”


“嫌だ”


“退けろよ”


“嫌だ”


“頼むから…退けてくれ”


荒々しいハヤトの声が 涙声になっていく


“退けろよ!”



戒めと怒りの矛先が壁に向かう




一息つき

“君達はバカだよ。僕は君達に最後まで付き合うよ”

って ハヤトは笑いながら言った









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