夜が明ける前に
ヤマナイアメ



「…………んあ」



ぼやけた視界に映るのは見慣れた白の天井。




…なんで?外にいたのに…。


きょろりと首を動かしてみても、今私がいるのは間違いなく自分の部屋だった。


のそのそと布団から抜け出して、ベッドを降りる。

ペタペタと身体中を触ってみる。




「…濡れてない。」



確か、傘を差さずに外へ走っていった。
だから、黒傘の前に立ったときはグショグショに濡れていた。

でも今は髪は乾いているし、部屋着はさらりとした感触を肌に残すだけだ。




疑問符が頭の上に散らかったまま呆然と立ち竦んでいると






「…起きたようだな」




背後から突然掛けられた言葉にびくっと肩を揺らす。


「…さっきまでいなかったのに、なんで?」




振り返ってみれば、黒傘を畳んで手に持っている、あの緋色の瞳の人物がベッドに座っていた。





肩に掛かるか掛からないかの長さの銀色の髪に、蒼白い顔。


そして、やはり黒の布で覆われた身体。十戒で出てくるモーセみたいな格好だな。と、ちらりと思う。



突然現れた人物を観察出来る自分にも驚いたが、何より、この人物に恐怖を感じない自分に驚いていた。



異様な身なりと雰囲気。

普通は恐怖を覚えるべきなのに、何故か安心さえ感じる。




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