狼に近付いた兎
「あたし、里中いちか。
青が丘中学出身なの。」

きれいな子に話しかけることほど難しいことはない。

緊張して、上手く話せないからだ。

「やだ。」

一瞬、驚いた顔をしたその子は、一言そう言った。

「え、ごめん。話すのやだった?」

あたし、初対面の人に馴れ馴れしすぎたか!

「違ッ、矢田 すばる(やだ すばる)」

「そっか、ごめん…。矢田さん。よろしくね。」
矢田 すばるさん。

それが彼女の名前。

一番最初のやだは、名字のやだね。

「うん、よろしく。」

矢田さん…ハスキーボイスで格好いい。

見た目と声がピッタシだよ。

「矢田さんは、男の子苦手?」

「いや、別に。里中さんは?」

「苦手だよ。だから共学なんかやだったもん…。」



「へー。」



気づけば良かった。

矢田さんの笑顔の変化に。
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