童話少年-NOT YET KNOWN-



「────ヤヨイ!!」

鬼道と鬼がいた──今はもう、いない──部屋の奥に、さらにもう一つ、部屋があった。
きっと昔は、事務所や仮眠室などとして使われていたのだろう。
長椅子と、錆びて開きそうにもない古いロッカーだけで、屈むスペースもないほど狭い。
長椅子もビニールが破けて、茶色くなったウレタンの端が覗いている。

ヤヨイは、クッションやタオルなどが申し訳程度に敷き詰められた、その椅子の上に寝かされていた。
ぐっすりと眠っているようだが咳が酷く、汗を掻いている。
涓斗がヤヨイの姿を見つけて最初にしたのは、安心して脱力することなんかではなく、額に手を当てて、何度も名前を呼ぶことだった。

「熱はあるけど……大丈夫だ、多分そんなに高くない」

むしろ脱力したのは紗散の方で、扉に寄りかかったまま、ずるずるとしゃがみこんでしまった。
はぁ、と深い溜め息を吐いて、鼻を一度啜ってから、ぴくりとも動かない。
気を失ってしまったのかとも思ったが、弥桃は、顔を覗き込むことはしなかった。

「雉世、ちょっとヤヨイ頼む」
「あ、うん」
「あ……おばさんに、電話」
「あぁ。……外じゃないと、繋がんないかな」
「いいよ、先に出て電話しなよ。ヤヨイちゃん、僕が運ぶから」
「さんきゅ」
「紗散、立って。帰ろう」

この部屋にだけ、小さな窓があった。
月が、もう高く昇っていた。


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