童話少年-NOT YET KNOWN-


“あの”事件の真相を闇に葬るというのは、そういうことだ。

『みーくんをよろしくおねがいします』という、あの走り書きも。
紫がかった栗色の瞳を持っていた女性と、何かと右目を細めるくせのあった男性も。
一人娘に一年近くも会えないまま、飛行機と一緒に海に落ちた夫婦も。
見ず知らずの身寄りのない子供を拾って育て上げた、この世界は変えられると信じていたテロリストも。
そして、それが叶えられるためなら何を──人の脚、腕、将来や命さえも──犠牲にすることをいとわなかった、孤独な学者の夢も。
全部、なかったことにされたのだ。

それを思い出に生きる人間が、ここに4人、いるというのに。
そこから生まれた繋がりが、ここにあるというのに。


本当は全部、仕組まれていたのかもしれない。
弥桃と涓斗と紗散が、似た境遇に置かれて、自然と惹かれ合ったのも。
雉世と出会ったのも。
秘密を知ったことも。

全て鬼道が仕組んだことなのかもしれないのだ。
鬼が完全ではないことも、きっと分かっていた。
もしかしたら鬼道は、自分が死ぬことさえも──。


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