童話少年-NOT YET KNOWN-



「……ばか、本題はこっからだっつの。」
「ふぅん? 今度はなにを」
「滝川雄一、刑事歴19年、ソシキハンザイ対策課、課長。」

断片的に呟かれた、独り言にすら聞こえるほどの弥桃の声は、小さな道場だからこそ、よく響いた。
ぎこちなくもあるし、辿々しいと言っていい。

しかし、雉世の表情を一変させるには十分だった。

「…………なんのつもり?」
「知ってるんでしょ。鬼に襲われたひと」
「………………え?」
「今まででかいテログループを何個もブッ潰してきた遣り手だって。今回初めて傷害事件になったから、大騒ぎになってんだよ」
「……う、そ……でしょ」
「……おい、雉世……?」

弥桃も涓斗も紗散も、彼の顔色を変えるくらいなら出来ると思っていた。
いつでも冷静沈着、穏やかで柔らかい表情を浮かべる雉世が、精神面は意外にも脆いことを、自分達だけは知っているのだ、と。

「駄目だ、……邪魔しちゃ、駄目だ……」
「雉世!? おい、」
「復讐するつもりなんだ、あのひとは……!」
「あのひとって……なぁ雉世、復讐ってやっぱ」
「邪魔しちゃ、駄目なんだ、消される……!!」
「、雉世!!」

だが、幾らなんでもこの怯えようは予想外だったのだ。
目を見開き、肩を縮めて、掌に爪が食い込む。
初めて聴くような震えた声で雉世は、言った。


「関わっちゃ、駄目だ……!!」




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