童話少年-NOT YET KNOWN-



「……どういうこと?」
「この倉庫、よく勝手に入って怒られた……あっちのフェンス破ったの俺だし、……あの電柱の落書きも」
「え? なんでこんなところで」
「あ、あっち……!」

泳ぐ目線をそのままに、駆け出した。

何かを探しているような仕草だが、今までと違って、舗装の雑な道路に目を凝らしているわけではない。
携帯電話のディスプレイを明かり代わりに掲げながら、記憶をなぞるかのように、ゆっくりと視線を沿わせる。

そうして少しずつ、ほんの少しずつだけ彼女の言動を理解しはじめた弥桃たちに、振り返らないまま、見上げて言った。

「ここ…………うちの会社の、工場だったとこ……!」

見上げた先には、錆び付いて風化してぼろぼろになって、辛うじて読める看板が、時の流れにも関わらずいまだ堂々と在った。

『TOY'S FACTORY NAKAGAMI』と、薄れた文字で。


< 94 / 135 >

この作品をシェア

pagetop