ももいろ
「いや、困ってるって!バンドなんて、お金いくらあっても足りないんだから」

小雪は断言した。

「そうなの?っていうかなんで知ってるのそんなこと」

うふふん、と笑って、小雪は少しくねくねしはじめた。

「彼がね?ライブとか見に行くの、好きで。詳しいんだ結構」

あ、そゆことですか。

「あたしも、彼氏と一緒にこの前初めてライブ行ってさ。楽しいね、あれ。インディーズのイベントだと、バンドの子達と喋れたりするし」

「そうみたいだねえ。CDとか、自分たちで売ってるんだもんね」

「CD出すのもお金かかるんだよ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんです。そんでさ、その、家政夫くんは、なんてバンドなの?」

「TKOってバンドの」

小雪は驚いたようで、口をぽかーんと開けている。

「TKOのギターでボーカルっていったら、司クンじゃん」

「知ってるの!?」

「知ってるも何も。この前、見たもんライブ!彼氏が今、インディーズの中で一番お気に入りのバンドなんだよ!」

「へえ…そんなにすごいの」

「すごいよ!来月なんてワンマンやるじゃん!あたし達、行くよ!」

「あ、ワンマンやるんだ」

前酔っぱらったときに言ってたけど、決まったんだ。よかったね司くん。

小雪は感心している。

「司クン、真面目なんだねえ…。それにしても、そんなガミガミ言うんだあの子。MCなんて谷川クン任せで、ほとんど喋らないのに」

「そう、すっごいうるさいの」

小雪はあたしに冷やかすような目線を送ったあと、

「ふ、嬉しそうに」

と言った。

「で、なんで出勤が増えるのよ?何を無理することがあるの?」

「うん…何も考えたくなくて」

小雪は無言で首をかしげて、話の先を促した。

あたしは、司くんといるとつらくなる時があることとか、自分の気持ちの矛盾を全部話した。

「惚れたか」

「へ?なんでそーなる…」

「惚れたんでしょう」

小雪はあたしの頭をなでた。

「いろんなこと、麻痺して忘れちゃった?桃花。それ、恋っていうんじゃなかったっけ?」




< 50 / 86 >

この作品をシェア

pagetop