蜜林檎 *Ⅱ*

深い絆

目覚めた杏は、隣で眠る
樹の手にそっと触れ
優しく握る。

もう二度と放さないように。
 
彼の手の温もりを感じながら
瞼を閉じる杏は、微かに
聞こえる音に気がつく。

杏はゆっくり起き上がり
樹のシャツを身に纏う。
 
そして、音の鳴る方へと
歩いていく。
 
樹を起こす事の無いように
寝室のドアを音を立てずに
閉めた後、リビングのドア
の向こうから聞こえてくる音

それは、携帯電話の着信音。

玄関に置かれたままの杏の鞄
から音は洩れる。
 
彼女は、慌てて電話に出た。

「もしもし・・・お父さん?」

その電話は雅也からで、何でも
百合の陣痛が始まり、真が今
病院へ百合を運んだという事
だった。

「早くて昼過ぎ、遅くても
 夕方には産まれるらしい」
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