蜜林檎 *Ⅱ*

胸が騒ぐ

お酒を飲みながら、朔夜に
絡まれている樹の姿を見て
ほんの少し、罪の意識に
苛まれる、まりあ。
 
まりあの胸は騒ぐ。

『なんて、子どもじみた事を
 してしまったんだろう』

まりあは、御手洗いの鏡に映る
自分の姿を見つめる。
 
10歳程も年の違う、杏の心を
傷つけようとしている自分は
なんて醜いのだろう。

だけど、樹の愛を独り占め
して、別れた後も彼の心を
縛り続けた百合という女性の
妹である杏だけには

樹を渡したくない。

『ううん
 イッキは返さない』
 
まりあの中で杏は、遠い昔の
百合・・・そのものに
映っているのだろう。

樹は4時頃、家路に着く。

杏を起こさないように
静かに鍵を開け
ドアを開け、閉める。
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