蜜林檎 *Ⅱ*
蜜林檎

甘酸っぱい

彼女は、言葉を話すよりも先に
さっと樹の傍に立ち、彼の腕を
掴んで支えた。

「大丈夫なの?テレビで
 重体だって言うじゃない
 心配したのよ
 肋骨折ってるの、痛むの?」

「ああ」

「この間は肺炎で入院
 今度は、交通事故
 貴方、災難続きね」
    
「知ってたの?」

「貴方の事は
 何でも知ってるわよ
      
 こういう職業についてくれた
 おかげでテレビで、貴方の
 元気な姿を見ることができる
 ニュースで、貴方の病気や 
 怪我を知る事ができる
 新しい作品が出る度に
 いっちゃんの声を聞くこと
 ができる」

久しぶりに聞く、母の優しい声

遠く離れた場所から、樹を
いつも温かく見守っていて
くれた人。

樹の瞳から、一粒の涙が零れた。

「あらあら、せっかくの男前が
 台無しじゃないの」

ハンカチを差し出す母の手を
樹は掴む。
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