修羅と荊の道を行け
「こっちが何するんですか!」

「ここは旅館!会社じゃないの!浴衣じゃないと意味がない。しかもここは浴衣をお客の好みに合わせて貸してくれるところなの」

渡辺さんが颯爽と着たのは、浅葱色に大輪の花が咲いた浴衣。渡辺さんの凛々しさを引き立たせている。

「浴衣を持ってきてもらう前に出てきてしまったみたいで…」

「少し待ってなさい!浴衣借りてくるわ!」

渡辺さんは、髪をグルグルとまとめて、出て行った。


「咲耶には桜色が似合うわ」

と渡されたのは、淡いピンクの浴衣だった。百合が咲いている。

可愛い。渡辺さんのセンスは間違いない。

普段はこんなメルヘンチックな服は着ませんけど、ここでは知っている人は渡辺さんと、高宮だけ。

高宮には合わないと思うし、大丈夫。

意を決して浴衣を着た。

「あと、これはあげる」

渡辺さんが、左の髪のサイドを持ち上げて、ピンで止めてくれた。
< 312 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop