どこかで誰かが…
エピソード7
春…桜が満開を迎える頃

片桐は新入社員として、
新しいスタートをきっていた。


入社早々、カナダにある親会社へ研修のため、1週間ほど向かうことになり…


「大変だね。」

「いや、楽しみなくらいだよ!」


手伝う必要もなく、手慣れた様子で旅支度を進める片桐を、ただ、
ベッドに腰掛け眺める佳菜子。


「…好きなコトが仕事になって良かったね!」

「ホント俺ってツイてるなぁって思うよ!本命の会社がダメだったときはマジ凹んだけどさ…」

「運、使いきっちゃった〜なんてコトないようにね!」

「え?」

「いつも気を引き締めておいてよ…調子にのらないこと!色んな意味で…」

「分かってるって!」


まだ佳菜子にとっては未知である“社会人”と言うものに、一足先になっていった片桐のことが、
兎に角心配で仕方がなかったし…まず、何よりも…

「ねぇ、カナダに転勤ってこともあるのかな?」


そんな佳菜子の気持ちを察したのか、

「佳菜ちゃん、俺はそんなに優秀な人材じゃないよ。それは少し、彼氏のこと買い被りすぎじゃないっすかね?」

そう言って片桐は、佳菜子の隣に座ると、頭をグシャっと撫でるのだった。


たった一つの年の差なのに、その冷静でブレない態度が、余計に、社会人と学生との隔たりを感じさせ、


「…ねぇ、キスして。」


ますます、不安は募っていくのだった。

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