パパはアイドル♪ ~奈桜クンの憂鬱~
「ない」


即答する奈桜の姿に泉も頭を抱える。


「その日読テレビのドラマ、泉が出ちゃえば?」


「お前……頼むから黙って茶、淹れててくれ」


奏の前向きな?提案は心にあえなく却下された。


「オレたちが無理だとか心配してもどうしようもないだろ。やるんだろ?奈桜は。なら、もう応援するしかない。出来る事があれば協力は惜しまない。事務所にだって言ってやるよ。何でもしてやる。もう、思うようにやれよ。後は気にすんな。オレたちに任せろ」


碧の言葉は奈桜にとっていつも心強い。


「そうだな。いくら言っても子を想う親心には勝てないよな。…うん。好きにしろよ。でも、隣にはいつもオレたちがいる事、忘れるな」


優しく穏やかに泉が言った。


「そうだよ。後ろじゃなくて隣だからな。オレたちは仲間なんだから」


「奏もたまにはいい事言うよな。あ…お茶おかわり」


『はいはい♪』とそそくさと心の湯飲みにお茶を注ぐ。


「みんな…、本当に…本当にありがとう」


深く頭を下げた奈桜はなかなか顔を上げなかった。
それは、溢れる涙が当分、止まりそうもなかったから。


窓の外のキラキラしていた夜景も色を薄め、濃さを失った空はオレンジの絵の具を染みこませるように色を変え始まる。


「朝だよ…」


「今日もいい日になるよ」


奏の言葉に奈桜は顔を上げ、みんな微笑み合った。
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