恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
『あの薔薇ね、“真紅の薔薇”って言うんだ。
今はもう真紅っていうよりも、どす黒い赤に染まっちゃってるけど』
今はって、どういう意味なんだろう。
不思議に思いながら、庭に咲く一輪の薔薇を眺める。
灰斗さんの言うように、赤黒い薔薇。
北側に位置するこの場所じゃ、建物に邪魔されて太陽の光は届かなそうなのに、その薔薇は弱ることなく咲いていた。
その姿が不気味にも思えて、灰斗さんに視線を移す。
あたしの視線に気付いた灰斗さんが、微笑みながら説明する。
『あの薔薇ね、血を飲むんだよ』
『血って……人間の?』
『そう。ヴァンパイアのものね。ここで処刑されたヴァンパイアの血は、あの真紅の薔薇に注がれる。
あれは、一種の誓いの十字架みたいなもんなんだ』
『十字架……』