誘惑プリンセス【BL】
 
「──俺、ヒメを迎えに行っていいのかな」


 思わず、そんな言葉が口をついて出てしまっていた。

 ヒメを連れ戻しに行った所で、ヒメが自分の意思で朔杜さんの所に行ったのなら、そんな事をする意味なんて無いだろ。


『今までちゃんと聞いた事は無かったですけど。恭介さん、恋愛的な意味でヒメノの事好きですよね』


 恋愛的、という言葉に少し引っ掛かるものを感じるけど、間違ってはいない。

 ここまできて本心を隠しても意味なんて無いから、俺は素直にヒメが好きだと認めた。

 陣くんからは、やっぱりそうですよね、と静かな口調で言葉が返って来たけど、次の瞬間──


『──俺は、そうやって恭介さんに迷惑掛けて、困らせてばかりのヒメノが嫌いです』


 それまでとは一転して、強い口調で陣くんは言い切った。

 ここで俺に言われても返す言葉に困るけど、前にも陣くんは、ヒメが嫌い、だと言っていた。

 ボーカリストとしての部分を差し引いた、1人の人間としてのヒメが嫌いだと。


『ヒメノは恭介さんの優しさにつけ込んで甘えてるんです』

「それは俺も感じてる。甘えられている事が、頼られている様に思ったのかも知れない」


 俺は、そうやって甘えてくるヒメが可愛いと思っていた。

 最初は面倒だと思っていた事も、段々と愛しく感じる様になっていたんだ。


『……恭介さんは、それでいいんですか』

「今のままじゃダメなのは分かってるんだ。俺は、ヒメのことを知らな過ぎるから」

『……ヒメノのことをもっと良く知れたら、恭介さんは幸せになれますか』

「え……?」

『電話で話すのもなんですし、恭介さんち行っていいですか』

「あ、ああ、良いけど」


 それじゃ、と軽く言葉を残して電話は切れてしまった。


 俺が幸せに、って、急にどうしたんだろう。

 陣くんにそんな事を言わせてしまうほど、俺は落ち込んでいるんだろうか。
 
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