誘惑プリンセス【BL】
 
「おい、陣!」


 陣くんを呼び付けた朔杜さんの表情が険しいものに変わっていく。

 そりゃそうだろう。

 多分、朔杜さんは俺の顔なんて見たくも無い筈だ。


「なんでコイツがいるんだ」

「朔杜さんが俺を呼んだ理由と同じですよ」

「……っ」


 強気な言葉を放つ陣くんに、朔杜さんは言い返せなかった。

 俺には会話の意味が分からないけど、朔杜さんが陣くんを呼んだってことは、最初からここに来ることになっていたのか。


「ヒメノ、恭介さんの所に帰ろう」

「……っ、なんで……、なんでっ、恭介を連れてくるんだっ!!」


 ヒステリックに叫んだヒメが、玄関の壁に凭れてズルズルと崩れていった。

 小さく蹲って両手で髪を掻き乱す姿は、まるで別人の様で……。


「ヒメ……」

「帰れ!」


 呼び掛けた瞬間、感情的な声が俺を拒絶した。
 
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