誘惑プリンセス【BL】
 
「俺に出来る事は少ないかも知れないけど、ヒメが笑って居られるように頑張るよ」


 ヒメの居場所に、帰る場所に、なれるように。


「……まぁ、こうやって大口叩いても、そのうちヒメに見限られるかもしれないんだけどね」

「その時は俺の出番ですから」


 気持ち良過ぎる陣くんの笑みに、何だか薄ら寒いモノを感じてしまう。

 思わず笑って誤魔化してしまったけど、ちゃんと返してやれる程の心の余裕みたいなものは、残念ながら底をついている。

 そんな俺の心境が伝わってしまったのかどうなのか、陣くんは「それじゃ、また」とだけ残してバイクに跨ると、闇夜へと消えて行った。

 エンジン音が遠ざかってしまうと、ヒメを抱きかかえているという今の状況が、酷く不思議なものに感じられた。

 とは言え、いつまでもここに突っ立っている訳にもいかない。

 タクシーに乗り込んで、俺のアパートを目指した。

 静かに寝息を立てるヒメの顔を見ているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなっていくような気がする。

 やっと、俺の元にヒメが帰ってきたんだ。

 そう思うと、何だか目頭が熱くなってきた。

 こんなにも誰かを想った事なんて無い。

 誰かを本気で好きになるって、きっとこういう事なんだろうな。

 辛い事も、嬉しい事も、全部が幸せに繋がっているような気がするんだ。

 気を抜くと、涙が零れそうになる。

 ぐっと堪えて、俺はそっと、ヒメを抱く腕に力を込めた。



#5 恭介の苦悩 fin
next ≫ #6 誘惑プリンセス 


< 149 / 171 >

この作品をシェア

pagetop