誘惑プリンセス【BL】
「なんだよ、その顔……」

「別に」


　くるりと踵を返してヒメはベッドに入っていったけど。

　俺を見ていたヒメの目が、捨てられた子犬みたいに沈んでいたように見えてしまって……。


「おやすみ」


　ヒメからの返事が無いまま、俺は隣の部屋に向かった。


　なんで、あんな顔したんだろう。

　ついさっきまでは俺のこと睨んで、不機嫌そうにしていたクセに。

　急にコロリと態度変えやがって。

　あんな顔されたら、気になって余計に寝られないじゃないか……！


　絶対に、わざとやってるとしか思えない。

　ああいう表情をすれば俺が心配すると思ってるんだ。


　ヒメのトランクを隅に寄せて、布団を広げる。

　初めて使う布団は案外感触がいい。


　ここ数週間はヒメが入ってくるだろうから、ってベッドの隅に寝るようにしていたけれど。

　やっぱり、1人でのびのび寝られるってのはいいな。


　最初からこうすれば良かったんだ。

　ベッドなんて、買う必要無いじゃないか。




#1 ヒメとベッド　fin
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