エレファント ロマンス
―――ここは……。


気がつくと、動物園の前まで来ていた。


これって、帰巣本能ってヤツ?


本当に無意識のうちにここへ来た。


私はいつものように裏口へ回り、関係者用の通用口から中に入った。


広々とした敷地。


何だか落ち着く。


いつものベンチに向かって2、3歩あるき出したとき、
「おい」
と、後ろから呼ばれた。


ドキッとして振り返ると、あの飼育員が立っていた。


不愉快そうな顔。


「女子高生って、ホントに良識のない生き物だな。入園料、払わないなんて、泥棒と同じだぞ」


お金を払わずに入園した現場を見られた私には返す言葉がない。


「あ、あの……」


「だからキライなんだよ」


吐き捨てるように言われ、気持ちがポキンと折れた。


「だって、行くとこないんだもん……」


子供みたいに言い返しながら、鼻先がキュンと熱くなる。


「は? 高校生なら高校いけよ。その制服、英倫女子だろ?」


「行きたくても行けないんだもん……」


泣きたくはないのに、涙があふれ出した。


何も悪いことなんかしてないのに、学校に行けない。


行き場がなくて、動物園に忍び込み、時間をつぶしている。


そんな自分が情けなくて、涙が止まらなくなった。


「行けないからここにいるんじゃん。学校に行ったら先生にセクハラされるし、家に居たらお父さんに心配かけるし……」


「セ、セクハラ?」


飼育員は困ったような顔で私を見た。


「無理やりキスされたり……体、触られたり……」


恥ずかしさで言いよどむ私から目をそらした飼育員は
「もういい。聞きたくない」
と、突き放すように言った。



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