エレファント ロマンス
顔を上げさせられた後、強く抱きしめられた。


「前園。これは君の過失だ。君が彼女の服を着て僕に寄りかかったりするから、気持ちが止まらなくなった」


まるで私が先生を誘惑したような言い方で責められながら、恐ろしく長い時間、抱きしめられていた。


その間も、私の体はずっと小刻みに震えていた。


常軌を逸しているとしか思えない担任の言動が怖かった。


一方的な『真剣に交際している』という妄想めいた発言。


無理やり部屋へ連れ込むときの強引さ。


いきなり髪の毛を切るという異常な行動。


恐怖の記憶に縛られているみたいに、動けなかった。


ピンポ―――ン……。


ドアチャイムの音が響いた。


先生の腕の力がゆるむ。


ピンポ―――ン。ピンポ―――ン……。


何度かチャイムの音がした後、今度はドンドン、と玄関の扉を叩く音が聞こえてきた。


「由衣?! いるんでしょ? あけて!」


明奈の声だ。


助けを求め、叫びだしたい衝動に駆られた。


けれど、目の前の先生が怖くて声をあげることが出来ない。


ドアを叩く音が止まった直後に、ケータイが鳴り始めた。


明奈からの着信。


鳴沢先生は微塵の動揺も見せない。


ただ、無表情に私を見ている。


「先生……」


恐怖でふさがっていた喉から、ようやく声を出すことができた。


「私をここから出してください。そしたら、先生が私にしたこと、お父さんに言ったりしません」


先生は私から離れ、不気味なほど優しく微笑んだ。


「もちろん帰らせてあげるよ。そんな交換条件、つけなくてもね」


私の必死の駆け引きをあざ笑うような言い方だった。


鳴沢先生が私の学生カバンの上に制服を乗せた。


「そのワンピースは君にあげるよ」


そう言いながら、制服の乗ったカバンを差し出す。


「またおいで」


その言葉にゾッとした。

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