獣~けだもの~
蒼い月が、冴えざえと輝いていた。
暗雲から一変。
急に顔を出した月を愛でるように、一人の優男が、そぞろあるきをしていた。
女物の内掛けを、着くずした着物の上に羽織っているのは、自前なのか。
それとも色街からの帰りなのか。
どちらもそうだ、と言われれば、納得出来るほど、美しく、儚く。
しかし、どこか仇っぽく、淫らな香りもする。
少年の面差しを残した青年だ。
一見。
いかにも、親の金で遊び暮らしている、ろくでなしのようではあるものの。
腰には、一応太刀(たち)を履(は)いている所を見ると。
かろうじて、武家の一員ではあるらしい。
それでも、得意は、剣術よりは、風雅な道の方なのか。
近日稀に見るような、美しい月に誘われるように。
彼は、太刀の上に差した笛を手に取った。
そして、まるで桜の花弁のような唇につけると、静かに音を響かせる。
ぴぃーーーろろろ
そして鳴った笛の音は。
青年の外見にあわぬほど、鋭く。
しかし、どこか淋(さび)しげにも聞こえる不思議な音色だ。
まさしく、これは、蒼い月を愛でるに丁度良い。