屋上の鍵は机の中に

「僕には、もう一つお気に入りの場所があるんだ。」

もっと特別な、安息の場所が。

「裏の桜のことを秘密にしてくれるお礼に、招待するよ。」

自分でもびっくりするくらいすんなりと言えた。

けれど、ポケットからキーケースを取り出し、アンティークゴールドの鍵をはずす手は笑えるほど震えていた。

「寮の屋上。」

声をひそめて、鍵を差し出した。

宮藤はきょとんとしたまま、それを受け取った。

「寮に屋上があるのですね。3年間いたのに知りませんでした。」
「時計塔の回りが展望台みたいになってて、高等部の方から上がれるんだ。それは合鍵だからあげるよ。」

それを使って屋上に来て。何度も使って。

「え、あの、」
「凄く眺めが良くて、上から見る桜並木っていうのも風情があってね、」

僕の方に鍵を持ち上げる手を見て、言葉を重ねた。

「あの、いいんですか?」

もしかして、入ってはいけない場所かと疑っているのかもしれない。

「寮則には屋上に関して何も書いていないし、『点呼後に他の寮生の部屋を出入りしてはいけない』というのにも触れないから、大丈夫だと思うんだけど。」
「えと、そうではなくて、この鍵を私なんかがもらってもいいのですか?」

彼女は不安そうな、申し訳なさそうな顔で僕を見上げていた。

小さいな、と思った。

――君だから、あげたいんだよ。

そうは言えなかったから、代わりにこう言った。

「秘密の同盟を組んだ証みたいなものだから。」

言ってから、こっちも相当恥ずかしい台詞だと気がついて、他人事のように鳥肌を立てた。


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