屋上の鍵は机の中に
溶ける
春は嫌いだった。少なくとも16歳のときは。

ひっそりとした世界、時が止まってしまったような冬の空気。

それが春の訪れの気配とともに、じわじわと溶かされてしまう。

それが嫌だった。

動き出した時間と始まりの季節に、誰もが浮き足だっている。

そわそわ

ざわざわ

落ち着きがない。

僕が平穏でいられた冷たい空気と静寂は、春に侵され、にわかに騒がしくなっていく。

それが憂鬱でたまらなかった。

孤独でいたかった?

いや、決してそうではない。

本当はみんなと馴染みたかった。

けれど、それは叶わない願いだと思っていた。

周りから取り残されてしまったような気がした、焦燥。

僕は先へ進みたくなかった。

進めば進むほどみんなとの距離が広がっていくのを感じていたから。

分岐点はもはや見えない、遠く後ろに。

冷たさの中に沈んでいたかった。

これ以上離れるさびしさに震えないように。


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