姫さんの奴隷様っ!
 
 
 
「クロム、顔を上げて下さい」
 
 
不意に聞こえた王の呼び掛けに、俺はゆっくりと彼を仰ぎ見る。
逆光だから、なのかもしれない。天から降り注ぐ恵を受けた彼の姿は、まるで――。
 
 
 
まるで、小国始まって以来の名君と謳われた亡き前国王その人のようだった。常に雄々しく、そして凛々しく、誰もが敬う小国の主を支える柱が親父だったと言うのなら、俺もなりたい。そう、ありたい。
 
 
「――皆、聞くがいい!我が国に勝利をもたらしたのは、亡き将軍を指揮し、我が国を勝利へと導いた"アマルガム"の功績と言えよう。その功績を讃え、宰相に任命する。……"テルミット"――その名に恥じぬ活躍を期待している」
 
 
 
なあ、親父。フルオロ。
俺、"テルミット"になる資格なんてないかもしれない。――けれど、それでも……。
 
 
蘇る言葉がある。何度も、何度でも。お前が遺した言葉だよ。
だから、後悔を糧にして前へと進むために、俺は俺の背中を押していく。その先に待つ未来に、一縷の希望と絶望を抱いて。
 
 
 
「恐れ入ります、王様。微力ながらこのクロム、国の為、民の為、誠心誠意お仕えする所存です」
 
 
深々と頭を下げながら、俺は思う。
式典のために繕った形式的な声も言葉も、嘘だらけな気がして嫌悪感があった。けれど、その嫌悪感は今日で何処かに棄ててしてしまおう。
今、此処で自らの主君へ誓った俺の想いに虚実はないと、胸を張って叫ぶことができるから。
 
 
 
"テルミット"
 
 
それは俺にとって尊敬と憧憬の存在であるた親父の場所だった。常に遥か高みにあったこの座に辿り着くまでに、一体どれほどの犠牲を払っただろう。
かつて、俺に奴隷の烙印を押した帝国の王へ抱いた憎悪も、奴への復讐の野望も、今ではすっかり消え失せてしまったよ。
 
 
寧ろ、あんな暴君に感謝しているくらいなんだから、不思議で仕方がない。
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