比丘尼の残夢【完】

※scene10『何時か流されるように』

お茶を運んで行くと、未だ不機嫌な医者は既に帰り支度をしていた。

きっと泣き真似だろうけど、ご主人様はスンスンとベッドでえずいていて、医者に何をされたのだか想像すると可哀想になった。


「ナナミちょっとこい、話しがある」

「ひぃっ」

さっきは優しく食まれていた耳を摘ままれて、私は部屋を連れだされた。


「あいつにはよーく言って置いたがな... と、まずは最初に聞くが」

言うだけじゃなくて注射とかしたんでしょ!? 泣いてたじゃない!


なんて言えるわけはなく。

腕組む医者の前で、私は大人しく正座した。


「君はもう身体は大人なのか」

「いえ、まだです... 」

月のものはまだ来ない。

来たらめんどくさそうだから良いのだが。


「それなら子供の心配はないにしても、だ。
何もしてないと言ってたあいつの言葉は本当か?」

「... 本当です」
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