桜の季節(短編)




















3月4日、後白河法王50歳の祝賀の日。
桜と梅を烏帽子に挿して青海波を舞う貴方に私は見とれてしまいました。
花のように舞っていく貴方はとても美しくしかった…。
見ていくうちに心は貴方に奪われていたのか、 私は貴方が舞い終わっても目を離すことが出来ませんでした。
…内裏で見かける度、高鳴る鼓動に私は少しずつ自分の気持ちに気がついてしまいました。
だけど気付かない振りをして自分の想いを封じ込めていました。
なのに…ただ一度だけ…ほんの一瞬だけ貴方の手に触れた日。
封じ込めた想いは解き放たれてしまった…。
貴方を見かける度に鼓動は高鳴り、あの日貴方が話し掛けて下さったことを思い出すだけで幸せでした。
けれど、私は女房の身で…貴方には妻子がいるのも知っていました。
だから私はもう一度想いを封じ込めようとしたけれど、どうしても出来ませんでした…あのときよりも大きくなった気持ちを封じ込めることなど出来るはずがなかった。
…想いを告げられないまま月日は流れて、貴方の一族…平家は都落ちしてしまいましたね。
時が経っても落胆してままの私に届いた噂は貴方が入水したというもので…。
…悲しかった、認めたくありませんでした。
貴方を好きにならなければ良かったとまで思ってしまった。
悲しい気持ちは心を…愛しいと思った気持ちを凍らせてしまったけれど…春、貴方と出逢ったこの季節だけは思い出してしまいます。
悲しみと愛しさを桜と共に私の心に咲かせながら…。




















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