バンビ
次の日の朝9時、待ち合わせは目黒だった。
結局今日は、先週話していた水族館に行くことになっていたから。

そこから大崎で臨海線に乗り換えて新木場でさらに乗り換え、葛西臨海公園まで向かった。

都心の水族館って、意外と高いんだよな・・・ 葛西ならそうでもなかったから。


いつものように手を繋いでモモと二人で歩く。

今日もなんだか、一生懸命お洒落してきたんだろうなって思う服装で可愛い。
まあ、こいつは何着ても可愛いんだけどな。


京葉線の中では、ディズニーランドに向かう同じ年ぐらいの学生がたくさん乗っていて、みんな楽しそうだ。
俺はそういうの興味ないけど、モモはきっと行きたいんだろうなって思う。
クラスの奴らとかも、そういう話しよくきくしな。



「うわぁ・・・海綺麗だねえ・・・」


葛西の駅を降りると東京湾のパノラマが見えて、ゲートブリッジの方まではっきりと見える快晴だった。
案外嬉しそうで一安心だ。昨日はちょっと怒らせちゃったから気になっていたけれど。



葛西公園を通り抜けて水族館に入ると、今度は学生より子供ずれが多くて、結構にぎわっている。
人ごみはそんなに好きじゃないけど、子供がいるのはなんだか和むから悪くないなって思ってみていると、モモも「みんな可愛いねえ」なんて子供達を楽しそうに見ていた。



「うちの店も、よく子供がくるんだよ。大野さんとこのさくらちゃんとか、小百合さんとこの華ちゃんとか。もうすぐ夏休みだから、また遊びにくるだろうなあ。」

いつも子供達と遊んでいて楽しいんだって話してくれるのが、本当に楽しそうだった。


「モモは、早く子供欲しかったりするのか?」

何も考えなしに、話の流れでそう聞いてしまったら、急にモモは真っ赤になってしまう。


「え?いやそうだね、うちのお母さんは割りと晩婚だったから、私は早いほうがいいかなって思うけど・・・」



そうだよな、子供作るってことはそういうことしなきゃいけないわけで、ちょっと話題にミスったなって反省する。

この前ビトと会ってから、そういうことは控えようと思ってたのに。



水族館の中に入ると、とても涼しくて薄暗くてなんだか雰囲気がある、デートにぴったりって感じだなやっぱり。

だけど、どの水槽の前も子供が最優先でわいわいとにぎやかに見ているので、俺たちはその隙間を縫って後ろの方で見るしかなかった。

この水族館のメイン水槽であるマグロのところに付くと、やっと広々としていてベンチなんかもあったから、しばらく2人でそこで休憩することにした。

俺たちの周りを、ぐるぐるとマグロがひたすら回っている。


「マグロって、ずっと泳いでないと死んじゃうんだってね。」

「それ聞いたことある、ってかさっきそこに書いてあったな。」

こういうとこくると、結構そういう説明とか読んじゃうんだよな俺。
やっぱ文章読むのは好きなんだろうな、母さんがああいう仕事だし。



ここは人も少なくて見やすいなあなんて思ってぼんやりしてたら、さりげなくモモが俺の肩に寄り添ってくるので、繋いだ手を離して肩を抱いてやる。

ふとした瞬間モモと目が合って、とても艶っぽい顔で見つめてくるから、思わずキスしたくなったけれども、きっとしちゃうとまたやりたくなるから我慢した。



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