実話〜頭文字(initial)─K─



「あぁ~あ~~!
とうとう中に入って来ちまったよ……」



新車センターの工場の天井を見上げ、Kさんは「仕方がねぇな」といった顔で呟きます。


その視線の先にいるのは、数日前から工場の外の軒先に“巣”を作り始めた鳩の姿でした。


工場の外で飛び回ったり歩き回ったりしているうちは、まだ構わないのですが、工場の中に入って来て、鳩が天井の下を右へ左へと飛び回っていては、その下の僕達は落ち着いて仕事に専念出来ません。


「ほらっ、出口はあっちだ!さっさと出ていけ!」


工場の梁に停まっている鳩に向かって、Kさんは右手でシッシッと追っ払う仕草をしますが、鳩は首を小さく傾げるだけで、当然その意味は全く通じていません。


「首傾げてんじゃねえっ!わかってんのか!」



たぶん、解って無いと思います。



鳩に向かって感情的になって怒っているKさんの姿に笑いながら、僕が言った


「放っておけば、そのうち出て行くんじゃないんですか♪」


という一言で、とりあえずは鳩を無視して仕事は再開されたのですが……



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