あなたの大切なもの

記憶

百合に電話を切られた純は、部屋に座り込み、頭を抱えていた。

「ちっきしょう! 百合…」


もうすぐ肌寒い秋がやってくる。
人肌恋しい季節が。

純は悔いていた。
大切にしていた女を、自分の過ちで傷つけてしまったことを。
腹を立てていた。
一緒に居たかった女を、捨ててしまった自分に。

いつしか純の目から、涙が出ていた。
頬をつたい、腕に落ちる。


「ごめん…捨てて――ごめん…ッ!」

泣き声まじりのその声は、静まりかえった部屋に、虚しく響くだけだった。
< 132 / 270 >

この作品をシェア

pagetop