夜明け前の桜道
揺れ動く気持ち。
「帰りましょう」
沙羅が、机の中から教科書を取り出し、鞄の中へと詰め込む、私は、当たりを見回す。
「葵が居ないわ」
「先に帰ったんじゃねぇの?」
「そんなことないはず、葵は道をまだ慣れて無いし…それに」
そう言って、葵の鞄を指指す。「鞄が残ってる」

「じゃあ、トイレでも行ってるんじゃねーの?」
そう言ったその時だった。
「須藤先生に挨拶に行ってた、お菓子も貰っちゃった」

「何だよぉ!?俺にはお菓子くれなかったのに」

「須藤先生に気に入られたのね」
沙羅は、葵から1つお菓子を分けて貰ってニコニコしていた。

「明徳は須藤先生に、いつも逢えるでしょ?」
私が言うと、葵はキョトンとしている。
「あぁ葵は、知らないもんな。俺と須藤のねーちゃんは姉弟なんだ。結婚したから名字変わったけどな」
葵から、無理やり奪ったお菓子を1つムシャムシャと食べている。

《ガラッ…》
「あ…いたいた。今日、悠介さんと、そっちに行くから、母さん達に言っておいてね」
噂をすれば影…とはこのことだろうか。
「まぢで!?悠兄も来るの?」
明徳が、1人でハシャいでいる。

「こら…葵君にあげたお菓子、食べたでしょ〜口の周りにカス付けて」
須藤先生が、白衣のポケットからティッシュを取り出し口を拭く。

「くくく…明徳ちっちゃい子みたいだな」葵は、笑いをこらえるのに必死だった。
「うるせーな、葵」
ぷいっと、そっぽを向く。

須藤先生は、私達を見渡すと「こんな弟だけど、根は良い子だから、これからも仲良くしてあげてね」

それじゃ…まだ仕事あるから。と言って、教室から出て行った。
「須藤先生、相変わらず素敵よね〜」
沙羅は、うっとりした様子だ。
沙羅と明徳が先に、廊下を出ている隙に、葵は私の手を握って来る、ドキンと、心臓が高鳴る。
葵にも、聞こえるんじゃないかと思うくらいだった。
それは数秒のことの出来事だったのに、何だかもの凄く時間が長く感じた。
スルリと、私の指先から葵の指先がすり抜けて行く。それだけで、何だか悲しい気持ちになった。
もっと、葵と手を繋いでいたい
葵の後ろ姿を見て、私はそう思っていた…これが、葵に惹かれている好きだと言う感情にも、気づかずに
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