夜明け前の桜道
願い。
私は、彼が元の姿が雀だと言うことをすっかり忘れてしまいそうになっていた…。

いや…本当は、忘れてなどないが自分の中で忘れようとしているのかも知れない。


咲良は、本当に人を愛す心を知ってしまったから…。


ーたった1人の人間として…彼をー



私は、自分の部屋で星空を眺めていた…
《コンコンコン…》
「はい?」

《ガチャ…》
「まだ、起きてたんだ」
葵は、ひょっこりと顔を出して、ニッコリ微笑む…。

「うん…眠れなくて」
そう言って、私は星空を又見上げた。

「星…綺麗だね…。僕もよく星空を見ていたよ」
懐かしむように、目を細める葵を見て…私は、何だか胸が痛んだ。

「……ねぇ、このままずっと人間のままで居れるの?…この家に…」

「え…?」

「…何でもないわ……」
ガバッと…布団を頭までかぶった。


今まで、ずっと気になってたこと。
胸の奥に引っかかってた物が、ポロリと落ちたような気分だった。

「さぁ…分かんないや。多分…落ち着いたら…この家を出て行くと思う」

私は、少しだけ顔を出した。
「会えなくなるの?」

「そうじゃないさ…僕は、このまま居ては咲良の為にもならないからさ」


ふっと、悲しげに笑っていた葵の表情が…私の頭から離れなくなっていた。

「おやすみ」
葵は、私の頭を撫でて…ソッと部屋を出てドアを閉めた。


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