ぼくたちは一生懸命な恋をしている
「駿河くんは、いつから私のこと……」

好きなの?なんて、すごく恥ずかしい質問だって、言ってる途中で気づいて語尾が消えてった。でも知りたい。顔が熱くなるのをごまかすように、両手を膝の上で握りしめる。
駿河くんは、ひとつ咳ばらいして、ソファのひじ掛けに頬杖をついて考えはじめた。

「明確に意識しだしたのは、俺が中学生のときかな」

「そ、そんなに前から?」

「あいちゃんは覚えてないよね。俺が中一のとき、事故で大怪我して、隠せないくらい顔が腫れ上がったことがあったんだけど」

「……ごめん、覚えてない」

「うん、いいんだ。できればあのときの俺の顔は知らないでいてほしいから。……お見舞いに来た同級生たちがね。ドン引きして、挨拶もそこそこに帰って行くほどひどかったんだ。仕方がなかったと分かってるんだよ。今なら、みんなのあの態度も受け入れられる。でも、当時の俺は事故で弱っていて、生意気だけど、自慢だった顔が悲惨なことになって、ショックを受けてたから、みんなの反応は結構きつかったんだよね。そんな中、あいちゃんだけは違った。ベッドに駆け寄って、一生懸命に「痛いの痛いの飛んでいけ」っておまじないをかけて、俺を心配してくれた。かなでは俺の顔を怖がって泣き喚いてたけどね」

「そんなこと、あったんだ……」

知らなかった。だって目の前のきれいなお顔には、傷ひとつ残ってないから。
駿河くんは、きちんと座りなおして、背筋を伸ばして、私と向き合った。

「俺は、あいちゃんに救われたんだ。もし顔が元通りにならなくても、受け入れてくれる人がいるって、ものすごく励まされた。そのときのことが、今も俺を支えてくれてる」

ふわふわと髪の毛をなでられて、胸がじんとする。ずっと与えられてばかりだと思ってたのに、私も知らないうちに役に立ててた。そのことが、とっても嬉しい。

「あのね、私も、ずっと傍にいてくれた駿河くんに救われたよ。うんとね、どれくらい駿河くんのこと好きか伝えたいけど、好きすぎて、どうしたらいいかわからない」

言葉が出てこなくてうんうんと考える私に、駿河くんが笑った。久しぶりに見る、やわらかくて優しい笑顔。

「どれくらい好きか、これからゆっくり教えてよ。俺もあいちゃんのことがどれだけ好きか、教えてあげるから」

時間は、たくさんある。そのことが、この心をときめかせる。
これからは、ほんとに、ずっと一緒にいられるんだ。
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