ぼくたちは一生懸命な恋をしている
28.かなで
産院からの帰りのタクシーでスマホをチェックすると、セイラからメッセージが届いていた。

『無事に叔父さんになれましたか?
未成年がいないとタチの悪い大人たちが羽目を外しすぎていけません。
次はかなでも参加してくださいね。』

今日は、ちょうどセイラとの撮影だった。年末だし、仕事終わりに忘年会をしようとスタッフのみんなで盛り上がっていたところで、母さんから連絡があったのだ。

飲み会の席にオレがいると、みんな酒もほどほどにして気を遣ってくれる。ストッパーのいない今夜は、さぞかしにぎやかなことになっているのだろう。セイラはきっと、そういうのが苦手だ。壁際で一人、絡むなってオーラを出してグラスを傾けている姿が簡単に想像できて、気の毒なのに、少しおかしかった。

『超可愛い姪っ子が産まれたよ。
なんとキラッキラの金髪!
ちょっとセイラに似てるかも、なんて思っちゃうほど可愛いんだ。
セイラが寂しくないように、新年会は絶対参加するよ。
飲みすぎないように気をつけてね。
あと、今度会ったときオジサンって呼ぶのはやめてね!』

返信すると、すぐにまた着信。

『おめでとうございます。
おとなはいつだって寂しいものですから心配はいりません。
こどもは早くおやすみなさい。』

まだ寝るには早い時間なのに素っ気ない。でも反論はしないで『おやすみ』のスタンプだけ送ってスマホをポケットにしまった。

あれから、セイラの態度は変わらない。それに救われたり、寂しくなったり、複雑だ。そう簡単にふっ切れやしないのは当たり前だろう。本気の恋だったのだから。
セイラのことが好き、だった。
助手席の暗い窓の向こうには、光が束になっていくつも流れて消えていく。
いつか、このつかず離れずの関係が心地いいと思える日が来るのを、待っている。
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