好きだけじゃ足りない


プラットホームから乗ったのは私の家の最寄り駅がある上りではなく、反対の下り。


電車に揺られて、目的地で降りる。
まっすぐに家には帰りたくなかった。

帰っても馬鹿馬鹿しい事ばかり考えてしまいそうで、逃げ道を探してたどり着いたのはやっぱり此処しかなかった。



カラン―…と小気味良い音を立てて扉を押し開けて、苦笑いに近い笑顔をカウンターの中にいた人物に向けた。



「…いらっしゃい。メグちゃん」

「こんにちは、マスター…」


私の逃げ道は此処しかない。
昔、伊織と来た思い出があって、尚且つ私を受け入れてくれる場所。

マスターは一瞬だけ驚いたような顔をしてから何かに気付いたのか優しく笑ってくれた。



「座って。今ミントティー煎れてあげるよ。」


何かに気付いているはずなのに、何も言わずに優しく声を掛けてくれるマスターに救われた。

同情をしてほしいわけじゃない。
話を聞いてほしいわけじゃない。

ただ、私を受け入れてくれる場所がほしい。
今だけでも、ほんの少しでも癒してくれる場所が欲しかった。




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