愛して 私の俺様執事様!!~執事様は秘密がお好き~
「さぁ、座って」
自室のドレッサーの椅子に座るようにと香椎くんに促され、私はゆっくりとそこに腰を下ろした。
鏡越しに香椎くんと私が並んでいた。
香椎くんはドレッサーの間に置かれた櫛を手に取ると、丁寧に。
ゆっくりと丁寧に。
本当に愛おしそうに撫でるように髪を梳いていく。
長かった髪。
光沢のある黒髪は自慢だった。
ずっとずっと伸ばし続けていた。
自分でもどうして髪を伸ばし続けていたのか。
ただ切りたくなかったからとかそんなわけではなくて。
願懸け。
そういう意味合いで髪を伸ばし続けていた。
けれど今日まで、私はその意味すら忘れていた。
どうして髪を伸ばし続けていたのかを……香椎くんのことを思い出したことでそれも思いだした。
私はずっと。
『おにいちゃん』に会いたかった。
会えなくなってから……いつか会える日のために素敵な女の子になっていようと髪を伸ばし続けていたんだ。
でも……どうしてそのことを忘れてしまっていたのか?
強烈なはずの思い。
その思い出だって深く刻まれているはずの記憶の中にはなかった。
「なんでかな?」
そう呟くと、ずっと髪に目を向けていた香椎くんが鏡越しに私を見た。
「なんで私……『おにいちゃん』のこと、ずっと忘れてたのかな?」
そんな問いに香椎くんは「ああ……」と目を伏せるようにして答えた。
「オレがキミの記憶に鍵を掛けたからだよ」