【ND第2回】雨

あの人がすぐ近くにいるというのに、わたしはそこで立ち尽くしてしまった。

霧雨が音もなく、髪を、頬を、くちびるを、服を、手を、足を湿らせていく。

目だけが、ゆらゆら揺れるビニール傘を追っている。

そのビニール傘が、なにかをあきらめたように、わたしがいるのとは反対方向に進みだそうとした。

わたしは、「あ」と声にだしていた。

ビニール傘が、また、揺らぐ。

「あ」


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