アリス in wonderland


「さてと。ごめんね、引き止めちゃって。」

勇太クンが爽やかな笑顔でそう言うから、あたしは首を横にふる。

「話ってのは、実は宇佐美のコトなんだ。」

彼の名前が出ただけで、ドキッとするあたしは重症だ。

「アイツは自分のコト全然話さないやつだから。ホントはオレから言うべきコトじゃないんだけどさ。」

そこまで言って勇太クンが黙るから、体に緊張が走る。

「アイツさ、見た目完全ハーフだけど、ハーフって言われるの嫌いでさ。実はアイツの父親、今だに誰か分かんないんだよね。母親は完全に日本人だから、絶対アイツの父親が白人なんだと思うんだけど。アイツはさ、母親が遊びで一夜限りでやった男との子なんだよ。それでアイツ生まれてすぐ、アイツの母親と日本人のオヤジさんは離婚してさ。母親はアイツを疫病神扱い。自分が悪いのにな。日に日にドコの誰かも分からない父親に似ていくアイツが憎くて、ずっと責め続けたんだ。アイツはさ、両親が離婚したのも、母親が苦しんでんのも、全部自分のせいだと思ってるワケ。アイツは何も悪くないのに…。だからさ、ハーフって言われんのは、アイツにとって一番ツラいコトなんだ。」


…何て言ったらいいのか、言葉が見つからない。

どんな言葉も、薄っぺらく聞こえてしまう気がして。

単純に羨ましいなんて思っていた自分が恥ずかしい。


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