たべちゃいたいほど、恋してる。




「あ、あの!ありがとう、大上くん!」



慌ててお礼を言えば、気にするなと優衣の頭を撫でる龍之介。

そして優衣の手に何かを握らせた。




「こ、これ…!」




手のひらには先程の抹茶パフェ。


驚きのあまり手の中の菓子と龍之介を交互に見る優衣に龍之介は僅かに口元を緩め




「これやるから、さっきの忘れろ、な?」




ともう一度頭を撫でてくる。




「んじゃ、帰りは迷子になるなよ」




最後にそれだけ言うと龍之介は踵を返し来た道を戻っていった。

どうやら彼はこの授業に出る気はないらしい。


だんだんと遠くなる背中に優衣は何か言わなくては、と口を開く。




「…大上くん!あの、本当にありがとう!!これ大切に食べるからね!!」




声を上げてお礼を言う優衣。


目の前にある音楽室は防音設備がよく出来ているらしく優衣の声は聞こえていないようだ。


廊下に響いた優衣の声に、龍之介は顔だけ振り返り




"ばーか"




と口を動かすと、すぐに顔を戻し後ろ手にひらひらと手を振って、そのまま廊下から姿を消した。


優衣はその姿が見えなくなるまで見送り音楽室へと足を踏み入れる。

胸に咲いた小さな想いとともに。




("ばーか"って言ったときの大上くんの笑った顔が忘れられない)




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