射しこむ光りはかわらない

繋がり



イロの頭に刻んだ、ボーカルの姿。
耳に響き続ける歌声。
目を閉じて思い浮かべる。

ライブが終了し、客が引いて行くのを今度も邪魔にならないよう隅っこでそうしながら待っていた。

最後の一人が出ていくとそこは抜け殻みたく、ただの部屋へと変わり。
キツく香水を纏う他人みたく、からっぽの殻のなかに残り香を残す。

イロは一人になった部屋に一つ小さな願いを架ける。

願いを言い終えると同時にステージの中に人の入って来る気配を感じ、それと擦れ違うようにイロは会場から出ていった。


『隙間なんてない 見つけても 君じゃ埋められない
やり直しは しない そんな 簡単じゃないから
過去に戻れる
未来に進める
必要ないから
・・・。』




「今、鉄さんかたずけ行っていないから、コレでしょ、預かり物は。」
受付にカメラを取りにいった、イロは思わぬ相手からカメラを受けとる事になった。
思わぬ相手だけど初めて見つけた時からずっと想っていた相手。

「あ・・。」

タオルを首に巻いた彼女はまだステージと同じ格好で、まだ冷めていないその熱が、こちらに伝わってきそうだった。

イロは何を口にしたらいいか思考が麻痺して、
ただ自分のカメラへと手を伸ばした。


カメラを通して二人は繋がる。

「初めまして、国分
恭子。
コレまだ返さないよ。」
悪戯な顔を少しはにかみ国分恭子が言う。
イロの掴んだカメラがそれ以上強く掴まれている事に気づく。もう一つのカメラは空いている方の手で頭の上に上げられていた。
反射的に引き寄せる力に力が入る。
それでようやく麻痺していたものが動きだした。

「ちょっと、マジになんないでよ。
私は国分恭子あなたは?」
冗談が通じないことに極端にいらつく国分恭子、
イロは力を緩めカメラから手を離した
「あ、え、立川イロ

なんでいるの。」
テレビのなかの芸能人に出会うような違和感。
現実とテレビの錯誤。
ステージの上でだけの存在が今、目の前にいた。
「なんでって言われれば、それは私が鉄さんに頼んだから、立川 イロ君が来たら教えてって。」







< 7 / 15 >

この作品をシェア

pagetop