天使の足跡〜恋幟


「あたしたち、似てるかも」


そう言った織理江と一緒に笑みを浮かべ合った。


──彼女の話では。


高校卒業後に性別適合手術を受け、戸籍も名前も変えたらしい。

今の高い声や、癒威より小柄な身体については、全く手を加えていないという。

もともと男性ホルモンが弱く、声変わりの影響が出にくかったからだと教えてくれた。

誰が見ても女性にしか見えない容姿も、そのおかげのようだ。


「自分で言うのは変だけど、この体のどこを探したって、男の子の要素は見つからないって自信だけは持ってる。
だからこれからも女の子として暮らして、恋愛したい。結婚とか難しいし、子供なんて産めないけど、女の子になれただけで幸せだから」


そう言って優しい微笑みを見せる。


癒威は目を丸く開けたままで、彼女の嬉しそうな顔を眺めていた。


どうしてこんなにも素直になれるのだろう?

どうしてそんな気持ちになれるのだろう?


自分の特徴を気にして恋を選ばない癒威と、過去を受け入れて恋に走る織理江。

正反対なポジティブな性格には惹かれるものがあった。


「癒威ちゃんも気にすることないよ。今のあたしは『女の子』だから、男の子を好きになる。でも癒威ちゃんは隔たりがないんだもん、どっちを好きになってもおかしくないし。それも一つのカタチじゃないかな」


一つのカタチ……


以前、某友人も言ってくれた。

“どんな色でもいい”と。

そう考えると楽だけれど、彼女のようにすぐには納得できない。
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