天使の足跡〜恋幟







午後2時頃に、僕らは近くのファーストフード店で昼食にした。


「もー、せっかく追いかけたのに、剣崎さんてばまた自分を置いてどっかいちゃうし!」

「だから悪かったって言うてるやんけ」

「言ってないですよ!」


剣崎さんは顰め面で、面倒くさそうに手を振った。


「ごめんな」


太田は反論しようとして息を吸ったが、押し殺してジュースと一緒に飲み込んだ。

いつも笑っている剣崎さんが、こんな態度をとるくらい余裕が無いのが分かったからだ。


それから少しの間沈黙が流れたが、剣崎さんがポツリと言う。


「何か……順二のこと見たら、気分悪なって。でも、やっぱ話ぐらいするかと思って戻ったけど……やっぱ腹立つわ、あいつ」

「その、順二さんって……?」


僕が訊ねると、剣崎さんは難しい顔で──しかし力なく答えた。


「もとは、俺ら3人で歌ってたんやけどな。あいつ、こんな遊びみたいなん、やってられるかー! 言うて、やめたんや。理由は……“能力”やったな」


「能力……?」

「うん。俺らは歌手目指してる訳ちゃうし、『楽しさ』で活動してるけど、あいつは歌手として成功することを目標にしてる。ホンマに歌は上手いねんけどな、勝手に自分と他人との能力の差に悩んで、沈んでたんや。俗に言うスランプってやつやな」


僕には順二という人の気持ちが……少しだけ、分かる。

僕もそうだったからかもしれない。

僕だって歌手になりたい、って思っていた。

だから必死になって練習したり、ギターにしがみついたり、時々、路上で歌う他人と自分を比べたりもした。

それで気付かされた、夢を押し潰そうとする能力の差……。


『そんな夢みたいなこと言ってないで、割のいい仕事に就きなさい。そんなの、叶ったってその先どうなるか分からないじゃない。歌の上手な人なら、どこにだっているのよ』


くだらない、と言いたげに諭す親の言葉を思い出す。

母親にそう言われてから、僕は夢を口にするのをやめた。

だからここに、『進学する』と大ウソをついた僕がいる。
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