六天楼(りくてんろう)の宝珠
九 囚われ人
──碩有様?

 頬に柔らかく触れられる気配を感じて、翠玉は眠りの世界から徐々に抜け出ようとしていた。

 現つとも思えぬ不確かな意識の内に、自分に寄り添っていた夫の温もりを感じていたのを覚えている。

──そうだ、昨晩……。

『私がお飾りの妻でないと言うのなら、証明してみせて下さい』

 碩有は彼女に証明してみせてくれた。充分過ぎる程に。

──私ったら、何て台詞を。

 記憶と共に羞恥を取り戻し、勢いよく瞼を開ける。

 うっすらと光が射し込む寝台の中、猫の鳴き声が聞こえた。

「……莉」

 どうやら、頬を撫でていたのは莉だったらしい。

「何だ……お前なの」

 首を巡らせて左を見ると、寝台には自分と枕元に座っていた白い毛玉の様な姿の愛猫のみ。応える様にまた一鳴き声がした。
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