苦くて甘い恋愛中毒


買い物を済ませ、見慣れたマンションへ向かう。
この三年の間にもう何度も通った道だ。

慣れた手つきでロックを外しマンションへと入ると、静まり返ったエントランスでまたも存在を主張するかのように足元から音をたてる。
そんな些細なことにも苛立って、いつもこの場で靴を脱ぎ棄ててしまいたい衝動に駆られる。

この高級じみたマンションには明らかに不似合いなチン、という軽快な音と同時にエレベーターに乗り込んだ。


家主から預かっている合鍵で鍵を開け、中へと入る。
前にこの部屋に来たのは多分一ヶ月くらい前だと思うけど、はじめてこの部屋に踏み入れたときから映る風景は少しも変わらない。

かろうじて変わったものといえば、私が買ってきた食器類だとか、彼に嫌な顔をされながらも置いている観葉植物だとか。
(もちろん、観葉する張本人はほとんどこの部屋にいないのだけど)

殺風景としかいいようのないこの部屋に、人に関心が薄い彼に、少しでも私の存在を主張したかったのだ。

そんなことでしか存在意義を見出せないって、何なのだろう。
もう何十回、こんな無意味なひとり問答を繰り返しているのだろう。

本人に言う勇気もないくせに。



私がさっきから考え続けているこの男――仲山 要(29)

多分、一応、おそらく、俗に言う〝彼氏〟という人物である。
商社勤務の彼は尋常じゃないくらい多忙で、その中でも特に出張が多い部署らしく、月の半分近く海外を飛び回っているんだとか。

彼が私に仕事のことを話すことは少ないけれど、傍から見ているだけでもデキる男だということは容易に察しが付く。

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