苦くて甘い恋愛中毒


約30分後。部屋にはカレーの匂いが充満している。

何とか間に合いそうだと思っているうちに、ドアが開く音がして要さんが帰ってきたのが分かった。

「うわ、いい匂い。カレー?」

「はい。ちょっと多めに作ったんで、残りは温めて食べてくださいね」

助かる、とあの笑顔を見せるから、私の心臓がまたうるさく騒ぎ出す。
それをごまかすようにキッチンに逃げ戻った。


そんな私を気にすることもなく、着替えてくる、と言って奥のベッドルームへ入って行った。

そういえば、初めてきたときあの部屋に寝かされていたんだっけ。
そう思うと今さらながら妙に恥ずかしくなった。


カレーとサラダを盛りつけてダイニングテーブルへ運ぶ。

「おー、うまそう。いただきます」

そう言って食べ始める要さんを横目に、私はふと部屋の中を見渡した。

物が散らかっているのはぱっと見ても分かるけど、なんていうか、生活感がない。
必要最低限のものしか置かない主義なんだとしても、何だか出張先のホテルみたいだ。


「要さんって片付けるの苦手な人ですか?それにしてももう少し片付けましょうよ」

「出張で海外ばっか行ってるから、月の半分もいないんだよ。洗濯とか片付けとか面倒で、買ってばっかりだから物だけが増えて」

「片付ければ済む話じゃないですか。もったいないですよ」

そう言うと〝やだ〟とまるで子供のように口を尖らせた。

「この前も思ったけど、菜穂ってまじで料理上手いよな」

床にまで散らばっている衣類だけでも整理しようかと思っていた矢先のひと言だった。

――ずるい。
また、不意打ちでこんなこと。


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