苦くて甘い恋愛中毒


「行ってくれば?」

思いきりにやついた顔で提案すると、想像通り『はぁ?』と好奇の目を向けられた。

だって、そんな〝女〟の表情見ちゃったら、そう言いたくだってなるじゃない。


「変な気利かせないでよ。別に行きたいなんて思ってないわ。それに、今日はあんたの誕生日祝いで来たの」

「私の誕生日なら、私の言うこと聞いてよ。〝行ってきて〟」

誕生日を笠に着て自分の思い通りに事を進める。

やっぱり、誕生日って最高だ。
普段じゃこんなこと通用しないもの。


「こんなに祝ったのにまだ足りないってわけ?」

静かに、でも迫力満点。
やっぱり、どうやってもこのビッチには勝てそうにない。


「いえいえ、十分過ぎるほどよ。でもほら、あそこに停まってるモスグリーンの車が哀れじゃない?」

そのまま窓越しに反対車線に目をやる。
あの車種、あのナンバープレート。十中八九、カズマくんだろう。

もちろん、彼がここの近くにいたのはまったくの偶然だろうけど、その偶然をちょっとお膳立てすれば、〝運命〟にだって変わるのだ。


「あたしの誕生日。覚えときなさいよ」

くわえていた煙草を灰皿に押し付けて、恐怖の捨て台詞を吐く。
再来月の理恵の誕生日が、今から恐ろしくてたまらない。

でも、ワンピースを翻し、彼のもとへと走っていくその姿は、嫌みなくらい美しかった。


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