苦くて甘い恋愛中毒


「ちょっと〜、無視しないでよ。傷つくじゃん」

完全にこの男の存在を無視することに決めたのに、それでもまだ絡んでくる。
うっとうしいにもほどがある。

せっかくいい気分で誕生日を過ごしてたのに、いくらイケメンだとしてもそれをぶち壊す権利があるとは到底思えない。


「いい加減にしてください。あなたの相手をする暇も、その気もありません」

男の挑発に負けて、ついに口を利いてしまった。

「おねーさん、男前だね」

はぁ?! 
ナンパされてるのかと思ったら、喧嘩売ってんの? 

でも、ここで声を荒らげるようなことをしたら、それこそこいつの思う壺だ。
私はなけなしの理性を保って、冷静かつ大人な対応を選択することにした。


「よく言われます。そういう訳ですから、どうかほかをあたってください。あなたほどの人なら、喜んでお相手してくれる女の子はごまんといますよ」

もしかしたらまだ絡んでくるかもしれない、という可能性も捨てきれなかったけど、今この場においてはこれが最善策でしょ。

どういう反応をするか身構えていたけど、意外にもあっさり引き下がってくれた。
そして、クスっと少し笑った後。


「やっぱいいね、おねーさん。まぁ、いいや。今日はこの辺で勘弁してあげる」

〝今日は〟? 
こっちは二度と会うつもりなんかないんですけど。

「俺たちさ。近いうちに絶対また会えるよ」

挙句の果てに、こんなことを言い出す始末。
これ以上相手をするのが馬鹿馬鹿しくなって、何も言わずにその場を後にした。

あんな男のために15分も無駄にした。
同じ15分なら、NHKの教育番組でも見ていたほうがよっぽど有意義な時間を過ごせたに違いない。



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