私だけの王子さま



ライブの場所は、本当にあの公園のすぐ近くで、私たちが着いた時にはすでにたくさんの人が集まっていた。


ほどなくして「こんにちはーっ!」というボーカルの声と共に、ライブが始まった。


その間の麻智は、色々な意味ですごかった。
キラキラと目を輝かせ、歌の途中にも関わらず、キャーキャーと叫ぶ。


正直に言って私にはそれほど良いとは思えなかった。

歌詞もイマイチ意味が分からないし、何よりもハスキーなボーカルの声が苦手だった。


このバンドどこが好きなんだろうと思ったけど、発狂中の麻智にそんなことを言えば、怒られるに決まっている。


だからここは大人しく黙っておくことにした。



そして――。

ライブが始まって約一時間が経ち、最後の曲の前奏が始まった時のことだった。


……やっぱり、この熱には付いていけない。


そう思いながらふと横に目をやると、仲良さそうに会話をする一組の男女が目に入ってきた。


買い物でもして来たのだろうか。
男性は両手に大きな荷物をぶら下げ、女性はその横に寄り添うようにして歩いている。


いいな、幸せそうで。

私が経験してきた上辺だけの関係とは違う、温かい雰囲気。

バンドよりもそっちに目が行ってしまう。


でも、男性が騒がしいステージに顔を向けた瞬間……、私は言葉を失った。



なぜならその人物は……。


私がずっと話したいと思っていた、
‘委員長’だったのだから――。





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