恋して、チェリー


「もういいでしょ」

赤くて、丸くて甘酸っぱかったさくらんぼは、

あたしの口の中で、黒くて歪んだ苦いものに姿を変えた。



カラになった白いお皿の上に、カランと音を慣らしながら、乱暴にフォークを置いた。



もう、返してよ……。


このままここにいたら、あたし、ダメになる。



「じゃ」

自分のお代をテーブルに叩き付けて、カバンを肩にかけた。



「もうエッチしたの?」

――1ヵ月以上経ってるんだよね?


楽しむような、声。


あたしはそれを無視して、お店を飛び出した。




悔しい

悔しい

悔しい……っ!



ここで涙を流したら、負けを認めたみたいで、必死にこらえた。


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